中小企業では株主名簿が作成されていないことがよくあります。(これは実は困ることが多いという話。)
知らない人も多いのですが、株主名簿は株券を発行する会社か否かにかかわらず、株式会社に作成が義務付けられています(会社法121条)。
この株主名簿には①株主の氏名又は名称及び住所(※電話番号やE-mailアドレスは必須ではありません。)、②保有株式数(種類株式発行会社ではその種類と種類毎の数)、③株主が株式を取得した日、④株券発行会社の場合は株券の番号を記載しなければなりません。
多くの中小企業は発行株式に譲渡制限が設定されている「閉鎖会社」の形態を取っているので、創業時から株式の譲渡や株主の構成が大きく変更するということはあまりありません。株主総会自体行われていないことも非常に多いです。
株主構成の把握は、普通、キャッシュを生まないので、普段の経営の中では株主名簿作成の必要性を感じる場面はないかもしれません。※たとえば、法人税申告時の「同族会社判定に関する明細書」の作成・提出は日常業務の中で株主構成を意識する希有な機会です。
ところが、株主に相続が生じたり、会社支配や経営方針による紛争が生じたりといった場面では、その会社の株主が誰かということが非常に重要な問題になってきます。また、会社と対立する立場の株主や会社債権者から株主名簿の閲覧や謄写の請求(会社法125条2項)があった場合にもその対応に非常に苦慮することになります。
こうなると、キャッシュを生まないどころか、本来必要のないキャッシュアウトを生じるおそれが出てくるので、ある意味バカらしい事態です。
なお、幸いなことに株主名簿は作成は若干色々な検討や配慮が必要ですが、非公開会社・閉鎖会社の中小企業では、それを維持していくのにほとんどコストはかかりません。そこで、株主名簿を作成していない会社においてはすぐにでも作成をすることをお勧めします。
ちなみに、最初に見たように会社法上、株主名簿については記載しなければならない事項は挙げられているのですが、どのようなフォーマットで作成するべきかについては定められていません。
紙や帳簿の形で作ることもできますし、Excelなどの表計算ソフトで作っておくことも可能です。(会社法125条2項2号の「電磁的記録をもって作成」というのはこういう場合をいいます。)
会社で株主や保有株式数がはっきりわかっているというような場合は問題ありませんが、
創業後かなりの期を経ている会社で、「主要な者以外の株主やその保有している数がわからない」という場合は少しやっかいになってきます。(そういうケースでは、株券の裏面の記載も当てにすることができません。)
会社の記憶や認識を元に株主名簿を作成してしまうということも考えられるのですが、
それが実態に合致しているという保証はないので、株主から株主権確認請求といった訴訟を提起されるリスクもあります。この場合は、過去の法人税申告時の記載のほか株主総会議事録(無いことも多い。)、創業時や新株発行時の引受金払込の記録、当事者間での移転に関する資料などの一次データを確認しながら、できるだけの客観的根拠に基づいた株主名簿作成を行う必要があります。
特に、資料を漁っていると、胡散臭い株式の譲渡契約書や株式譲渡の承認請求に関する書面が出てきたりすると、その有効・無効の問題も合わさって、非常に面倒な検討をしなければならなくなることがあります。
株主名簿作成のご相談は弁護士中村真まで。
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